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伊藤恵夫氏









メガラプトル




マプサウルス




マプサウルス幼体頭部




目の上のモコモコ





 
ギャラリートーク 4月24日 伊藤恵夫氏
伊藤氏のトークは内容が多岐にわたり、かつ、話の様子をなるべくそのまま伝えたいので、録音をおこしたものに、あまり手を入れませんでした。読みにくい部分があったらお詫びします。
伊藤氏は、この恐竜展のCG監修者として自己紹介を始めました。

(自己紹介 CG監修者)
 まず、こちらの恐竜、マプサウルスが主人公なので、私はこの恐竜展というよりは会場のスクリーンに放映されているCGの監修をしました。

(マプサウルスの骨格)
 CGの主人公がマプサウルスですが、マプサウルスって、どういう意味だかご存知ですか?恐竜の名前は、○○サウルスという名が付くものが多いのですが、ラテン語やギリシャ語の意味を持っているものが多いです。マプサウルスは、「大地のトカゲ」という意味だそうですよ。カッコいいでしょう。この12〜13mの復元骨格を作るのに大変だったそうです。大変だったのは、なかなか完成しなかったそうなんです。考えていただきたいんですけど、この骨格は、この大恐竜展のために作られたのですよ。博物館にあるのを借りたのではない、この恐竜展のために作られたのですよ。ということは、このCGを監修してくれと私はいわれちゃったのですが、その時点で資料がない、まだ出来ていない。「今、クリーニングしています」とか、「今、大体こういう感じです」という、しっちゃかめっちゃかの状態で、監修をさせていただいたのですが、何しろ論文を見ると、少なくとも7体の部分骨がバラバラにブァーっと発見されたわけですよ。大きい骨、小さい骨が入り混じって発見されたので、この頭の大きさでこの足の骨でいいか、わからない。恐らく、作るときに相当迷ったのではないかと思います。

ここの展示では「親子」ということになっているようですが、本当に親子かどうか、7匹もいるのだから判らないですね。そこへいくと、この入場券でも行ける常設展のティランノサウルス・レックスは、完璧に1体そのまんまです。だから、この頭のサイズに対してこの背骨、この腕と、わかるわけですけれど、マプサウルスの場合はよくわからないわけです。 この展覧会のために作ったわけですから、大体、恐竜の研究は、博物館に展示することが目的じゃないでしょう。この骨はどういう関節面を持っていて、どういう可動域を持っているか、そういうことが目的でしょう?組み立てられちゃうと、関節面が見えない。研究者としては、展示することが最終目的じゃない。そうすると、ここに展示してある恐竜は、一つの博物館にある物を借りてきたものではないわけですね。いろんな大学、博物館にある恐竜をお借りしてきたわけです。となると、実は、それを復元した研究者の方も違うわけですよ。そうなると、1個1個の骨はウソはつかないけれど、複数の骨が集まって全身骨格を組み立てると、組み立てた人の哲学というか、考え方というかあるいは、(声をひそめて)言えないけど、○○さ加減とか、そういうのが出ちゃうわけですよ。

そうすると、マプサウルスとメガラプロル、ちょうど隣に並んでいるので、どこが同じでどこが違うかという目で見てみると、正直言ってこのマプサウルス、大きいなって感じするでしょう?あるいはT-REXより大きいと言われたりするので、大きくしたいという思いがあると、大きく大きくしたいとすると、例えば胸の付け根に丸い骨がありますね。これ、こーんなに開いているでしょう?こっち(メガラプトル)はどうでしょう?結構くっついている。だから、開いていると大きいイメージがあるけれど、どっちが本当でしょう。これを見終わったら、皆さんぜひ常設展のT-REX、スタンを(比較のために)見ていただきたい。

 今度は皆さん、骨格を横から見ていただきたいので、移動しましょう。 (前後のバランスと手の大きさ) 真横から見ていただきますと、いわゆる「親」の方を見てください、骨盤があって、腰があって、2本足で立っているわけですから、ちょっとこれ見てください、足、腰があって、シーソーのような、やじろべえのようなバランスをとっているわけです。

つまり、こんな頭が大きいくせに、手が小さいですよね。これ、どうして?手が小さいということは、使われていなかったと考えちゃうかもしれないけれど、手が小さいのは、例えばティランノサウルス・レックスも小さいですよね。それは使われていなかったから小さいのではない。どういう意味かというと、今言ったバランスです。頭が大きいと、前に倒れちゃう。そうなると、普通のサイズの腕じゃ、倒れちゃう。やっぱりだめですよね。やっぱり手を小さくしないと、バランスをとることができない。ということで、手は小さくなっちゃったわけですね。だから、ほかの頭の大きさとか腰の丈夫さに比べると、手は、バランスから考えるとずいぶん小さいじゃないかと思えるけれど、それは全体の前と腰の後ろのバランスから小さくなっちゃったんですね。

(目の位置、耳の位置)
 さて、それではバランスのところはいいけれど、頭を見ていただきたい。では、この間講堂でもやったんですけど、さて、この間、目はどこかなという話をしたよな?どこだった?忘れた?ここに、大体、大型の肉食性恐竜の頭というと、いっぱい穴開いているよね。で、例えば、こことか、こことか、ここにも、ここにも。で、これ、鼻の穴だよね。じゃ、目はここに来るかというとここじゃない、ここだよね。小っちゃ!

じゃ、ここはなんでしょう?耳?そう思うよね。そう思うのが普通、君はよく言ってくれた。ありがとう。実は、ここは耳じゃないんだ。じゃあ、みんな、こめかみって知っている?さわってごらん。こめかみをさわって下あごを動かすと、ここ、動きますよね。上顎と下あごを閉じるための筋肉がここにある。恐竜も同じ。目の後ろのこの穴は耳の穴じゃなくて、下あごを閉じるための筋肉が入っている穴です。だから、こんなに大きい窓が開いているということは、すごい筋肉が入っているということなんだよ。その強力な筋肉で、パコーンと顎を閉じる。じゃあそうなると耳はどこよ?という話になっちゃうよね。もしもそこに耳があると、我々のこめかみに耳があることになっちゃう。これ、おかしいよね。耳の位置はどこかというと、ここなんです。つまり、顎の関節のちょい上。だから、我々人間も含めて、顎の関節と耳の関係は非常に近い。その証拠に皆さんやってみてください。耳の穴に指を突っ込んで顎を動かす。わかるでしょう?(「耳も動いている」と子どもの声。) というわけで、ここが耳なんです(と、顎の付け根を指す) 。

恐竜の復元画なんて、昔からいろいろな人が描いてきて、いろいろなイラストレーターがいろいろな復元をしてきたけれど、かつては、絶望的な復元画もあったのね。もろここに耳の穴を描いたりして…、それはウソですからね。

(歯 恐竜は乱杭歯)
 あと、歯を見てもらおうかな。俺、この歯、気に入らないのだけれど。結構きれいに同じくらいの長さでピーっと並んでいるでしょう?おそらく、発見された本物の骨にはこんな状態で歯はついていなかったと思う。では、どうしてきれいな歯並びではいけないの?というと、我々人間は哺乳類だから、乳歯が1回抜けると永久歯が生えてきて、それでおしまい。ところが、サメとか何度でも生え換わるでしょう?うらやましいかもしれないけれど、サメみたいな歯だったら「ラリルレロ」と言っただけで舌が血だらけになってしまうよ。恐竜も何度でも生えかわります。だから、歯がどんどん伸びてきて抜けちゃうわけだ。そうすると、こんなにきれいな歯並びでずーっと伸びてくると、抜ける時、みんな一気に抜けちゃうわけだよね。それ、困るでしょう?だから、本当は肉食性の恐竜は歯が乱杭歯というか、長かったり短かったりするのが本当。

(目の上のモコモコ)
  さて、あとこれで見てほしいのは、この目の上のこのへんのモコモコ。これ、何?え、トゲ? はっきり言って、私もわかりません。アロサウルスで、目の上に角を生やしている復元を描いている人がいるけれど、あれが角だというのは間違いだからね。側面から見ると尖っていて角のように見えるけれど、真上から見るとすごく薄いから、もし本当に角だったら、ぶつけた瞬間にボキッて折れちゃう。だいたいマプサウルスもアロサウルスもT-REXもこのへんに装飾っぽいモコモコや変なものがあったりするんだよ。例えば、マプサウルスだったら、目の上から鼻面にかけてモコモコってある。よくわからない。(子どもに) わからないので、調べて?(子ども「ヤダー」)

(俺の思い)
 さて、何しろ俺、骨ってかっこいいと思って、骨の勉強していただけの人間なので、大体、恐竜の研究者じゃないんですよ。恐竜というと骨ばかりじゃん、もう俺のフィールドだなと思って。国立科学博物館の新宿分館で足掛け10年アルバイトしたこともあったのですけど、もう、引き出しとかに骨ばっかりだからね!いいとこだよー!そういう所で勉強して、骨ってカッコいいという思いを強くしたのですが。
つづく