ニュージーランドに恐竜をたずねて


オークランド博物館


                    1995年7月17日、スキー旅行の最後の滞在地オークランドに到着した。ホテルの時計は 午後2時半をさしている。これから夕食まで自由行動。ガイドブックを見ると、当地には オークランド博物館があり、マオリ族のカヌーとモアの標本が売りだとか。モアの写真は 友人から頼まれている。それにひょっとしたら何か恐竜の展示があるかもしれない。
 実をいうと、ニュージーランドに恐竜がいたのかどうか事前情報は全く無かった。オー ストラリアなら、ミンミやレエリナサウラ、ムッタブラサウルスなど数種の恐竜がいたこ とが知られている。が、ニュージーはどうだろう。3百万の全人口の実に3分の1が住む 第一の都会、オークランドの博物館だ。何かはあるだろう。
 市域の中心部のホテルからドメイン(王領地)と呼ばれる公園にある博物館まで歩いて 30分。雨が降るかと思えば晴れる天気の中、オークランド大学を通り抜けて博物館に急ぐ 。5時までしか開いていないのだから。芝生の丘の頂きに建物はそびえていた。折しも虹 がかかっていい眺めだ。大きさは、上野の国立博物館の本館をやや小ぶりにした程度か。
 入口に近づくと、垂れ幕がかかっている。やたっ!恐竜の絵が火山をバックに描いてあ る。これは期待できるぞ。なにがしかの寄付金を払い、受付で日本語の案内パンフをもら う。このスペースに国立博物館の本館、東洋館、表慶館それに科学博物館の本館の展示を 詰め込んだといったら分かるだろうか。マオリの彫刻の隣にはイギリスのアンティ−クが 並び、横にはエジプトのミイラ、手前には日本の伊万里焼きといった按配なのだ。
 その中で、お目当ての恐竜の絵のついた展示は、企画展として開催されていた。別に7 ニュージーランドドル(約 430円)を払う。"VOLCANO & GIANTS"(火山と巨人)と名づけ られたこの展示は文字通り、火山と過去の巨大生物についてだった。ニュージーは日本に 匹敵する火山国で、過去にはクラカトアやセントヘレンズ山を遥かに上回る激しい活動が あったそうだ。大体オークランドも数々の死火山の上にできた街だ。



 火山弾や溶岩標本を 通り過ぎると、出たっ。肉食恐竜が襲っているジオラマだ。再現の手法がいささか古いな どと思いながら次に進む。ここにはニュージーランドで最初に見つかった恐竜化石なるも のが展示されてある。肉食恐竜の尾椎骨だ。

ニュージーランドで最初に発見された獣脚類の化石


 そもそもニュージーランドでは、日本と同じく1970年代までは恐竜化石は何も出ていな かったそうな。ところがここにジョーン・ウィッフェンというアマチュアの奇特なおばさ んがいて、執念で発見したという。今では古希を過ぎているが、なお矍鑠として発掘作業 にいそしんでいるらしい。北島のテ・ホウ渓谷、マンガホウアンガ川という所が発掘地で 、1975年に初の化石が発見された。これはオーストラリアの学者によって肉食恐竜の尾椎 と鑑定された。メガロサウルス属などという話もあるようだが、あんなヌエのような恐竜 の一味と言われてもピンとこない。さらに1988年にはアンキロサウルス、そのほかヒプシ ロフォドンや翼竜の化石も発見されているそうだ。


ヒプシロフォドンの腸骨      翼竜の翼骨


これら白亜紀の恐竜の産出状況はこん な程度で、この点も日本によく似ている。当地の画家デイブ・ガンソンは、ディノニクス とメガロサウルスがヒシプロフォドンに襲いかかっているイラストを描いている。ディノ ニクスも発見されたのだろうか。

メガロサウルスとデイノニクスが
ヒプシロフォドンを襲っている


 一方、海棲爬虫類の方は沢山いたようで、モササウルス、プレシオサウルスの頭骨、顎 骨や鰭の化石などが展示されてある。これも展示の図を見ると、当時のニュージーランド はゴンドワナ大陸がオーストラリア・南極と分離しつつある中で、ある時は大陸の沿岸、 ある時は島として存在していた。ここには展示されていないが、いい全身骨格の標本もあ るそうだ。


モササウルスの頭骨          エラスモサウルスの鰭


 総じてニュージーの状況は10年ほど前の日本の恐竜産出状況によく似ている。
 もう一つの目玉、モアの骨格は鳥類の部屋の一番奥にある。ご存じのとおり、ニュージ ーランドにはムカシトカゲ以外の爬虫類、コウモリ以外の哺乳類は有袋類さえ生息してい ないかった。鳥類の天下だった。そこに1000年前、マオリ族が移住してきて一番の獲物と してモアを獲り尽くし、絶滅に追いやった。
 ジャイアントモアの骨格と復元ほか3種のモアの骨格が展示されてある。さすが、畏敬 の念をおこさせるほどモアは大きい。こんな鳥が今も生きていたら、世界中の動物園は争 って手に入れようとするだろう。そのほか、キウィの剥製もかわいい。

モアの骨格。左から
ジャイアント・モア
スレンダー・ブッシュ・モア
リトル・ブッシュ・モア


 ミュージアムショップで恐竜関係のポスターやニュージーの古生物の本をあさり、アー ユー ア ティーチャー?と、レジのお姉さんにいぶかられるほど買い込んだ。おまけに 企画展の記念キャップを8個ももらった。いい土産になる。もう5時だ。夕食の待ち合わ せに帰らなくては。と、駆け足だったがニュージーランドの恐竜探訪は終わった。


 参考文献 NEW JEALAND Geographic No.19 JULY-SEPTEMBER 1993







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