21 恐竜時代の生き物たち桑島化石壁のタイムトンネル
   2002年7月10日発行 千葉県立中央博物館監修 発行 晶文社出版 発売 晶文社
   本体1,600円 ISBN4-7949-7607-0 A4判 111ページ

   まずタイトルを確認してください。”恐竜”ではなく、”恐竜時代の生き物たち”です。「なん
  だ、恐竜は出てこないのか」と、がっかりすることはありません。恐竜はもちろん出てきま
  す。しかし、この本の真骨頂は、石川県白峰村の桑島化石壁から産出した、あらゆる生き
  物の化石について、どれが脇役ということもなく紹介していることです。

   桑島化石壁の化石研究は、明治はじめのライン博士から100年以上にわたっています。
  当初は植物化石が知られていましたが、1982年に女子中学生により偶然発見された”加
  賀竜”の歯化石、続いて87年からの調査により、恐竜化石の産地であることが明らかにな
  りました。

   しかし、この産地の素晴らしさが明らかになるのは、桑島化石壁に穿たれたトンネル工
  事で掘削された岩石からです。トリティロドン類、三垂歯類、オヴィラプトロサウルス類など
  、テレビや新聞紙上を賑わせた発見には事欠きません。その発見は、専門家とアマチュア
  の一体となった調査研究に支えられてきました。例えば、一つ一つの岩をさいころほどま
  で割る、化石の確認作業や、実体顕微鏡を用いた緻密なクリーニング作業に支えられて
  いるのです。

   視点を転じてみましょう。たとえば、あなたが現代の生き物でアフリカゾウを調べる場合を
  考えてみます。アフリカゾウの解剖学的特徴を調べることは、とても大切なことです。でも、
  アフリカゾウは単独で生きているのではありません。食物とする植物、そのフンをエサにす
  る昆虫、草原や水場で出会う他の動物たち・・・それらについても調べてこそ、生態系の中
  の一つの生き物としてアフリカゾウを理解することができるでしょう。恐竜も同じです。

   桑島化石壁からは、白亜紀初頭の植物、貝、魚、カメ、トカゲ、恐竜、翼竜、トリティロドン
  、哺乳類、鳥類、昆虫など様々な化石が産出しています。それらにより、当時の生態系を
  復元することのできる、世界的にも数少ない例なのです。考古学でいえば、王や貴族だけ
  でなく庶民の暮らしまで復元できるのです。

   本書は、桑島化石壁からの多様な化石紹介、それらから復元される当時の生態系、化
  石壁調査の舞台裏、発掘とクリーニングのマンガ、及び復元画ができるまでなど、読者を
  飽きさせない構成で、”恐竜時代の生き物たち”を身近なものにしています。カラー図版ペ
  ージは72ページ。図鑑としても通用するほど。それでいて本体1,600円は、とてもお買い得。

   恐竜といえば、アメリカやアフリカ、中国などに注目しがちですが、日本にもこんなに豊か
  な貴重な産地があることを、読んで体験してみてください。ワクワクしますよ!


22 図解雑学 恐竜の謎
   2002年8月31日発行 平山 廉 著 小田 隆 復元画 ナツメ社
   本体1,200円 A5 222ページ ISBN4-8163-3306-1
   "図解雑学シリーズ"の1冊として発行された本ですが、内容は決して雑学のレベルでは
  ありません。むしろ、一般向け恐竜本としてはかなり高レベルなものです。シリーズ編集の
  コンセプトでしょうが、平均800字にまとめられた項目が93、コラムが5。各項目は文章と図
  ・表の見開き2ページになっており、著者が”はじめに”に書いているように、その項目が一
  読して理解できるようになっています。

   項目は章だてで大きく”恐竜の発見”、”恐竜の世界”、”恐竜の生活”、”恐竜の絶滅”
  および”恐竜と人間”に分けられています。ただし、”恐竜の生活”では恐竜時代の他の生
  き物についても16項目を割いています。項目については、最近話題になった論文成果もよ
  く取り入れてあり、2002年夏時点では漏れはないといっていいでしょう。著者の執筆態度
  をみると、丁寧に資料にあたっており、一見簡単に見える表なども手間がかかっていると
  思えるものが見られます。良書であるかどうかの基準の一つに、索引と参考文献の充実
  が挙げられます。巻末の索引は恐竜名のみですが100以上を数えます。参考文献は3ペ
  ージ半あげられています。これらを見ても”雑学”レベルでないことはよくわかるでしょう。

   古生物復元画は、小田隆氏によるペン画。非常に高いレベルのものですが、小型本の
  ため、体の一部のみになっている図が多いのは残念です。あるいは意図して、その恐竜
  の特徴的な部分をクローズアップしたということかもしれません。

   著者のポリシーでしょうが、恐竜や分類群名のうち一部が英語読みである。英語読みに
  する基準が、よくわからない。全て英語読みならば、トリケラトプスは”トライセラトプス”に 
  ヴェロキラプトルはヴェロシラプターになるはずですし、”サウルス”という標記さえできない
  でしょうが、”シールロサウルス類”のように、そうはなっていません。英語の発音はローマ
  字読みとは異なりますが、つづりが異なるわけではない。日本語ではつづりも異なってしま
  います。一般にあまり知られていない恐竜や分類群名のみ英語読みにすれば、混乱をもた
  らすのでないかと思えるのですが・・・このあたり、動物分類学会あたりでは何か基準を作っ
  ていないのかなぁ?

   とはいえ、この本は手軽に読め、それでいて高水準という両立しにくいハードルを、余裕
  を持って越えています。著者には”最新恐竜学”、”痛快恐竜学”はじめ恐竜本の良書があ
  りますが、それらとともに、この本を恐竜ファンは手元に置くべきです。