シヴァ神再臨
恐竜絶滅の原因として、ユタカン半島のチチュラブクレーターを作った隕石説がもはや世間
では通説になった感じがします。一方、恐竜学最前線第13弾('96年3月)では、金子隆一氏
がシャンカール・チャタジー博士の全面協力のもとに、インドで発見された巨大クレーター「シ
ヴァ」と、チチュラブクレーターの成因に関する考察を紹介しています。その後、「シヴァ」が話
題になることはありませんでした。しかし、研究は進んでいたようです。
'97年にチャタジー博士の著書"THE
RISE OF BIRDS"が、ジョンズ・ホプキンス大学から発刊
されました。その第11章で白亜紀末の大絶滅についてふれられています。
それによると、シヴァは楕円形のクレーターで、長径は600km、短径は450km。現在はインド
亜大陸とシェイセル諸島に分断されています(図1現在の位置)、(図2白亜紀末の位置)。
これはチチュラブクレータの直径180kmに比べて格段に大きいものです。地表に対し真上から
の衝突ではなく、現在の地図で言えば南南西から北北東に最大15°ほどの低い角度で衝突
したとされています。そのため、その周囲には当初、高さ40kmにもなる衝撃で吹き飛ばされた
堆積物の山ができたと推定されています。(図3シヴァクレーター全図)
ここで、チチュラブクレーターとの関係について、恐竜学最前線での紹介と異なった考えが示さ
れています。最前線では、チチュラブクレーターは、シヴァの衝撃が地球の対蹠点に伝わって、地
中から突き上がった衝撃により地表が吹き飛ばされた二次的なものとされていました。
本書では、最初からチチュラブクレーターも衝突により形成されたことが前提となっています。そ
の上で、両者の間に何か関係があるのか考察されています。ここで思い起こされるのが、木星に
衝突したシューメーカー・レヴィー彗星です。あれは、衝突前に幾つにも分裂して時間をおいて次々
と木星に飲み込まれました。分裂した天体が12時間の間をおいて衝突すれば、自転により両ク
レーターを形成することになります。さらに、両クレーターを結ぶ大円上に第3のクレーターがある可
能性もあると、述べられています(図4シヴァとチチュラブの地理的関係)。
そして、UCLAのフランク・カイトが、この円上にある北西太平洋底(DSDP 576)の掘削により、87%
がニッケルでイリジウムに富む金属微粒子を発見したのです。これにより、カイトは衝突したのは彗
星でなく、小惑星だろうと、述べているそうです。その後、その周辺の海域からも衝突の証拠となる
ショックト・クォーツなどが発見され、ここに第3の衝突(サード・インパクト)があっただろうとされている
そうです。
では、恐竜絶滅の原因として有力な火山性の要因についてはどうか。チャタジーは、確かに衝突前
からデカン・トラップに活動は盛んだったが、インド国内の恐竜化石の産状を見ると、白亜紀末まで特に
変化は見られない(図5デカントラップ周辺の恐竜化石産状)。これは、キラウエア火山が活動している
ハワイの生態系が貧弱でないのと同様に考えられる。確かに火山性の噴出物の総量は衝突に起因す
るものよりはるかに大量だし、生態系にストレスを与えていたが、大量絶滅の主犯は衝突とそれによる
植物の全世界的な炎上、その結果生じる気温の変化やすす、酸化物による海洋汚染、食物連鎖の途
切れなどをあげています。
翼竜やトリを除く恐竜が絶滅し、トリが生き残った理由については、その体の大きさ、依存している環境
の幅の狭さ、種の戦略としての繁殖率の違いなどをあげています。トリは生き残りさえすれば翌年に卵を
産んだだろう、で、個体数と増やしたということなのでしょう。
以上、ごくごく大ざっぱに同書から紹介しました。もっとも、いつも言うように私の英語力はノヴァの鈴木
さん以下ですので、これを根拠とせず、直接同書にあたっていただければ幸いです。
参考文献
"THE
RISE OF BIRDS":225million ywars of evolution/Shankar Chatterjee.
1977The JhonsUniversity Press
恐竜絶滅最新のシナリオ 金子隆一
恐竜学最前線第13弾 1997年3月1日 学習研究社